『 わたしのジゼル! ― (2) ― 』
「 おはよ〜〜〜 」
すぴかが勢いよく食堂に飛び込んできた。
このジョーとフランソワーズの娘は 小さな頃から早起きさんの元気モノ・・・
普通の日はもちろん、週末だって祝日だって朝陽と一緒に起きてくるのだ。
「 お。 お早う すぴか。 早いなあ 」
食卓についていたジョーは新聞をずらせて 娘に笑顔を見せた。
「 わあ! おとうさ〜〜〜〜ん !!! おっはよ〜〜〜 」
「 うん お早う〜 」
「 きゃわ〜〜〜い♪ おとうさ〜〜〜ん おとうさん♪ 」
たたた・・・っと走ってくると、すぴかはジョーの膝に ぽん、と飛び乗った。
「 えへへ〜〜〜 いっちば〜〜ん♪ 」
「 そうだねえ 早起きさん。 で すばるは? 」
「 寝てるよ〜〜〜 おきろって一ぱつ けとばしてきたけど〜〜〜
う〜〜ん ・・・って言ってまたおふとん、かぶっちゃった。 」
「 ま〜 土曜日だからいいか ・・・ 」
「 だめよ。 だらだら寝ていては。 」
キッチンから いい香と一緒に母の高い声が飛んできた。
「 ジョー、すばるを起こしてきてくださる? すぴかさん、 お皿を運んで。 」
「「 は〜〜〜い 」」
父と娘は クス・・っと笑いあってからそれぞれの < 任務 > に赴いた。
― 30分後 ・・・ 食堂はほかほかの味噌汁の香でいっぱいだ。
「 おはようございます。 いただきます 」
お父さんの声に合わせ皆で いただきます をして、箸を取った。
週末、島村さんちでは朝ご飯は ご飯にお味噌汁、卵焼きかアジの干物、浅漬けか漬物サラダ・・・
といった和風の献立が多い。
「 〜〜〜 ん 〜〜〜 朝の味噌汁はほんに美味いのう〜〜〜 」
博士はこの国の < 熱々のミソスープ > がすっかり朝食の定番となっており、
時には トーストに冷えたオレンジ、そして熱々のミソスープ などというメニュウもお気に入りになっている。
「 ね〜〜〜 このたくあん おしい〜〜〜〜♪ 」
「 ・・・ おか〜さん たまごやき もっとおさとう、いれて〜〜 」
「 あ〜〜 やっぱりウチの卵焼きが一番だよ〜〜 フランの卵焼き♪ 」
「 うふふ・・・ アリガト、ジョー♪
」
当家の卵焼き は 多分に オムレツ風 なのだが・・・ 家族にとっては立派な!卵焼きである。
「 ― すぴか すばる。 二人に話があるんだ。 」
皆で ご馳走様 をした後、ジョーは即行で食卓を離脱しそうな子供たちを制止した。
「 ? なに〜〜 お父さん 」
「 なに 〜 」
「 ちゃんとイスに座って聞く。 いいかい。 」
「「 は〜い 」 」
この家では基本的なシツケはピシ!っと押さえてあるので コドモたちはちゃんと座ると
まっすぐに父親を見あげた。
「 あの ね。 今度、お母さんは大切なお仕事があるんだ。 それで 」
「 わ! おか〜〜さん!! ぶたい?? なに おどるの〜〜〜 」
ジョーが全部言いだす前に すぴかがすぐに口を開いた。
「 え おかあさん、バレエ? わ〜〜〜 タクヤお兄さんと??? 」
弟もすぐに割り込んできた。
すばるはタクヤと < 大の仲良し > なのだ。
「 すぴか すばる。 お父さんのお話はまだ終わってないのよ? 最後までちゃんと
聞きましょう。 」
お母さんが助け船をだしてくれた。
「「 ・・ は〜〜い
」」
「 ね〜〜 お母さん なにおどるの〜〜〜 」
「 すぴかさん。 」
「 ・・・ は〜い 」
「 おっほん! それで だね。 お母さんは帰ってくる時間が今より遅くなる日も
でてくる。 そんな日には二人とも 」
「 アタシたち! がくどうクラブ にいるよ! あのね〜〜 るみちゃんなんてね〜〜
7じ半 お迎え なんだよ〜〜
」
「 ・・・ 僕たちも ・・・ 7じ半おむかえ になるの・・? 」
甘えん坊のすばるは もう涙声になっている。
「 すばるってば〜〜〜 なきむし! るみちゃんなんて一年生なんだよ? 」
「 ・・・ けど けど〜〜〜 」
「 おっほ〜〜〜ん!! 」
「 「 あ ・・・ 」
」
「 二人とも 聞きなさい。 学童クラブには今までと同じ時間にお迎えにゆく。
ただしお母さんは行けないので 」
「 ワシが行くよ。 時には帰りに三人で買い物に行こうなあ 」
博士がにこにこ・・・話を引き継いでくれた。
「 わあ〜〜〜♪ おじいちゃまと〜〜〜 お買いもの 〜〜 」
「 おじいちゃまのおむかえ〜〜♪ 」
「 はいはい 嬉しいのはわかったから。 もうちょっと静かに聞きなさい。 」
「「 は〜〜い 」」
「 では お母さん、 お願いします。 」
「 はい。 二人ともおじいちゃまにワガママを言ってはだめよ? 」
「「 は〜い 」」
「 お母さんのお仕事のなんだけどね。 すぴかもすばるも知っているかな〜
『 ジゼル 』 っていうバレエなの。 それでね ・・・・ 」
フランソワーズは今度の舞台について ざっと子供たちが理解できる範囲で話をした。
「 うわ〜〜〜 『 ジゼル 』 〜〜〜 すご〜〜〜い お母さん! 」
「 タクヤお兄さんと! わあ〜〜〜 タクヤお兄さん、かっこいい王子さま やるんだ〜」
子供たちはもう興奮してきゃいきゃい言っている。
「 それで ね。 お母さん、一生懸命がんばります。
だから すぴか すばる。 いろいろガマンしてもらうことがあると思うけど・・・ 」
「 おか〜〜さ〜〜ん がんばって!!! 」
「 がんばって〜〜〜〜 おかあさん ! 」
二人はイスから滑り降りると 母親に飛びついた。
「 あらら ・・・ まあ〜〜 二人とも・・・ ありがとう〜〜 」
フランソワーズは 半分涙目になってしまった。
「 ほらほら〜〜 今日は土曜日だろ? お父さんもお休みだから ・・・
皆でまずは庭の掃除、しようよ。 」
「「 わあ〜〜い♪ お父さんと〜〜〜 」」
「 それじゃ 5分後に裏庭にしゅうごう〜〜! 」
「「 りょ〜かい! 」」
子供たちはもうお母さんがんばってハグ なんかきれいさっぱり忘れて! ダダダダっと
駆けだしていった。
「 ふふ それじゃ掃除してくるから あ 戻ったらバス・ルームの掃除するからな〜 」
「 ・・・ ええ ありがとう ジョー 」
ふんふんふ〜〜ん♪ 彼もご機嫌ちゃんで庭に出ていった。
家族と過ごすことが、家庭の雑事がなによりも好きで 元気の源なのだ、とジョーは笑う。
「 さて ワシは下の煙草屋まで散歩がてら行ってくるよ。
ああ なにか買い物があればその先の商店街までゆくが ・・・ 」
博士ものんびりと腰をあげた。
「 はい いってらっしゃい。 え〜〜と・・・?
あ それじゃ煙草屋さんの先の、あの小さなお店で卵がまだ残っていたらお願いします。 」
「 ほい 引き受けた。 あそこの卵は新鮮で美味いからのう 」
「 ええ スーパーのとは全然ちがって ね 」
「 じゃ 行ってくるぞ。 」
「 はい お願いします。 」
博士が出かけると、家の中は急にしん・・・としてしまった。
「 ふう・・・ さあて。 大急ぎで片づけて ― DVDで振りの確認よ!
」
フランソワーズは腕まくりをし、< 臨戦態勢 > にはいった。
・・・ こうして 島村さんち ではそれぞれの週末が始まっていた。
芸術 というものはどの分野であってもおそらくほとんどが 伝承性が強いものだろう。
つまり ・・・ 絵画や陶芸など <結果> は作品として残るけれど
その<過程>、 つまり如何にして誕生せしめたか、という方法は残らない。
記録はあるかもしれないが、実際の様子とは違う。
特に 音楽や舞踊においては顕著だろう。
最近は 技術が飛躍的に発展したので映像として保存することが可能となったが、
一昔前までは ほとんど不可能だった。
< 伝説の名ダンサー > の踊りは 人々の記憶と感想的な文章に残るだけで、
実際に観た人々がいなくなれば その実態の記憶も消えてしまった。
現在は きちんと映像として残せるので本当に素晴らしいことだ。
「 え〜〜と ・・・ まずは一幕から ね。 あ〜〜〜 あのヴァリエーション・・・
懐かしいわあ ・・・ 」
フランソワーズはリビングのTVの真ん前に陣取り、しっかりリモコンを引き寄せた。
バレエ団の事務所から借りてきたDVDも設置した。
「 パリオペラ座 ・・・ か。 ああ 本当にわたし ・・・ ジゼル を踊るのねえ 」
ふ・・・っと目の奥が熱くなってきた。
「 あ だめよ、フランソワーズ。 泣いている暇なんてないのよ?
しっかり振りの確認、しなくちゃ。 うん、まだだいたいは覚えているから ・・・
できれば今日のうちに全部チェックしたいのよね ・・・ 」
ぶつぶつ独り言を言いつつ ― カチ。 彼女はスイッチを押した。
〜〜〜〜 ♪ ♪ ♪♪
普通、延々と続く作品紹介やら劇場の様子などはカットしてあった。
緞帳があがり 『 ジゼル 』 の一幕が始まった。
「 ・・・ ふふ ・・・ どきどき ・・・ ? え ・・・あ そうだっけ? 」
場面が進むにつれて フランソワーズの表情は真剣になり、画面に張り付き ― しばしば
リモコンで 停止 だの バック だのを使用し始めた。
メモも最初は きちんと書いていたが 次第に文字から象形文字風になってゆく。
バレエ、特にクラシック・バレエの作品は山の様な数の規定のパと身体の方向から出来上がっている。
踊り手は自由に動いている風に見えるが すべて決められた通りに踊っているのだ。
だから全幕モノの作品であっても 全て文字で書き表すことができる。
そして正当な訓練を受けた踊り手ならば その記録を読めばその通り踊ることができるのだ。
( そのために子供のころからの なが〜い期間の訓練 = レッスン が必須 )
「 ・・・ ふ う ・・・ えっと ・・・? 」
フランソワーズは もうTVに張り付きっぱなしだ。
「 おか〜〜さ〜〜〜ん! のどかわいた〜〜〜 むぎちゃ〜〜〜 」
バンっ !!! 勢いよくすぴかが飛び込んできた。
「 ・・・ ふんふん ・・・・ 」
「 ね〜 おかあさん むぎちゃぁ〜〜〜 ・・・? あ まだ ジゼル ? 」
すぴかはとてとて・・・ 母の側にやってきた。
「 あ〜〜〜 ジゼル だ〜〜 これってぇ 一幕だよねえ? 」
彼女も一応? バレエ教室に通っているし 母につきあっていろいろDVDを見ているので
ジョーなんかよりもよほど詳しい。
「 う〜〜ん ・・・ え? あ そうよ、一幕よ ・・・ えっと? 」
カチ。 フランソワーズはリモコンを押した。
「 あ〜〜?? もどる? もいっかいみるの、おかあさん? 」
「 そうなのよ〜〜 このヴァリエーションの振り ・・・ 覚えているのとちょっと違う?
う〜〜ん でも動いてみないとな〜〜 やっぱり40年の時間差はキビシイわあ〜〜 」
「 ??? よんじゅうねんってなに? お母さん 40さいじゃないよ〜〜? 」
「 ・・・ え? あ。 すぴか。 」
フランソワーズは やっと隣に座り込んでいる存在に気が付いた。
「 うん? お母さんって40さい??? 」
「 ち! 違うわよ〜〜〜 なんでそんなこと言うの? 」
「 え〜〜〜 言ったの、おかあさんじゃん。 40年はキビシイ・・ とかさ 」
「 ! あ あのね。 それは ・・・ え〜〜と 『 ジゼル 』 ってとっても
昔から踊られてきた作品なの、って意味。 」
「 40年まえから ? 」
「 え ううん もっと前からよ。 あ すぴかさん、なあに、オヤツ? 」
フランソワーズは内心冷や汗モノだったけれど 素知らぬ顔で話題を変えた。
「 むぎちゃ〜〜〜! ・・・ オヤツでもいいけど♪ 」
すぴかはすぐに母の作戦に乗ってきた。
あは ・・・ すぴかでよかった〜〜〜〜
すばるだと 結構しつこく追求してくるのよね〜〜
彼女の娘は よく言えば明るくおおらかであまり物事にはこだわらないタイプ。
そして同じ日に生まれた息子は ― 普段はのんびり屋だが実は < 超 > がつく頑固モノ。
こだわりだしたら 両親がどう説得しても本人が納得するまで粘り続ける。
「 なんだってわたしとジョーからこ〜いう性格のチビが生まれるわけ??? 」
「 ・・・ ぼくにも謎だよ 」
ジョーとフランソワーズは時々二人して心底首をひねくりまくっている。
「 あ ああ・・・ えっと・・・ 麦茶ね、冷えてるわよ〜〜 冷蔵庫。 」
「 アタシ、出してもいい? 」
「 お願いね。 あら もうこんな時間 ・・・ そろそろお昼の用意、しなくちゃね 」
ふう ・・・ ちょっとため息。 まだ振りの確認はほとんど進んでいない。
う〜〜〜 ・・・まだ一幕のヴァリエーションも終わってないのに〜〜
このまま集中してやってしまいたい 〜〜
ああ せめて一幕だけでも確認しておければ・・・
けど。 週末のお昼、特にお父さんがいる日は皆で楽しく食べることにしている。
子供たちも そしてなによりジョーが楽しみにしているのだ。
「 ・・・ 仕方ないわ。 わたしは ― このウチの主婦なんだもの・・・ 」
もう一つ、ため息を飲みこんでから彼女はキッチンに立った。
「 おか〜〜さ〜〜ん むぎちゃ ・・・ ほら 自分でついだ〜 」
冷蔵庫の前ですぴかが なみなみ〜〜〜 零れそうなコップをもって得意げだ。
「 あらぁ〜〜 上手にできたわね〜 じゃ・・・ そうっとテーブルまでもってゆけるかな?」
「 う ・・・ ん ・・・ 」
すぴかは神妙な顔つきになりすり足でキッチンを横切っていった。
「 ・・・ っと! できたっ ! 」
「 はい お上手♪ さあ〜〜 お昼はなににしようかなあ? 」
「 アタシ〜〜〜 すぱげってぃ〜〜〜 」
「 え ・・・ なんのスパゲッティがいいの 」
「 え〜〜〜 すぱげってぃ ってきまってるじゃん? きゅうしょくでいつもさ〜 」
「 あ あら・・・ 給食と同じ献立でいいの?
今日は〜〜 土曜日だしお父さんも一緒なのよ? 」
「 あ そか! う〜〜〜ん ・・・? 」
「 じゃあね、 ちょっとお父さんとすばるにもリクエストを聞いてきてくれる? 」
「 うん!!! 」
当初の目的だった麦茶はそのままテーブルに置きっぱなしで すぴかは外へ飛び出していった。
「 ・・・ う〜〜ん ・・・ お握り とか オープン・サンド にしたいのですが〜〜
残り物も片付くし 作る手間もあまりかからないし〜〜 そうしましょ。」
リクエストの回答を待たずに 一家の主婦はどんどん準備を始めていた。
「 ご〜〜 ちそうさま でした 〜〜〜〜 」
元気な声がテラスに響く。
― 結局 土曜のランチは ≪ おべんとう ≫。
なんのことはない、残り物のオカズやらチン! したフライなんかと
ぎゅぎゅぎゅ・・・っと握ったお握りを弁当箱に詰めて皆でテラスで食べた。
ごく普通の献立なのだが子供達は大喜び、大人と同じくらいの
< お弁当 > をぺろりと平らげた。
「 まあ まあ 皆きれいに食べたわねえ 」
「 あ〜〜 美味かったぁ〜〜 」
「 うふふ・・・ ジョーもペロリ ね 」
「 うん♪ だってほっとうに美味しかったんだもの・・・ ウチのオカズは最高だよ〜
あ〜〜〜 満腹 満腹〜 」
ジョーはお腹をぽんぽん・・・と叩き笑っている。
「 ふふふ ・・・ ちょっと場所と入れ物を変えただけなのにね 」
「 それと 皆で食べたから さ。 」
「 そうね 」
「 あは ・・・ やっぱりウチはいいなあ〜〜〜
」
心底幸せそう〜〜〜に ジョーはため息をつく。
「 ね〜 ね〜 おと〜さ〜〜ん ゲームしよ〜〜 げーむ〜〜〜 」
すぴかが 父の背中にとびついてきた。
「 あ〜〜 お父さんは ピコピコ〜〜ってのはやりたくないなあ〜
」
「 え ちがうよ〜〜 だいやもんど・げ〜む〜〜 おじいちゃまが作ってくれたの〜
ねえ ねえ おとうさん、 だいやもんど・げ〜む 知ってる? 」
「 ダイヤモンド・ゲーム? 知ってるさあ〜 お〜〜〜 懐かしいなあ〜〜 」
「 ね ね〜〜 やろうよ〜〜 」
「 僕もやる! ね〜〜〜 お母さ〜〜ん おかあさんもやろ〜よ〜〜 」
「 おか〜〜さ〜〜ん ゲームやろ〜〜〜 」
「 ・・・ あ ・・・ 」
「 あ〜 お母さんは さ ちょっと忙しいんだ。 」
「 え〜〜 おかあさんも〜〜〜 やるのぉ〜〜〜 いっしょに〜〜〜 」
「 おか〜さん。 いっしょにやろ? 」
「 え ええ ええ お母さんもやりますよ。 」
フランソワーズは笑顔で答えた。
あ・・・ 午後は 振りの確認を終わらせたいんだけど ・・・ でも
わたしは この子たちのお母さんだもの・・・
「 あは お母さん〜 残念だなあ〜〜 ダイヤモンド・ゲームは定員3名 なんだ。 」
ジョーは に・・・っと笑って細君に上手に助け船をだした。
「 あらあ〜〜〜 残念〜〜 それじゃ すぴか、すばる〜〜 お父さんとゲームしてね。」
「 う〜〜〜〜ん ・・・・ あ それじゃさあ〜 途中でおかあさんと代わって〜〜 」
「 まあ まあ まずはお父さんとゲームしようよ? おじいちゃまが作ってくれたの、
お父さんに見せてくれよ 」
「「 うん !! 」」
子供たちは きゃらきゃら騒ぎつつ室内に駆けこんで行った。
「 さ きみはきみの < 仕事 > をしろよ。 チビたちはぼくが引き受けた。 」
「 ・・・ ジョー ・・・ ! 」
「 午後はぼくがアイツらを独り占め さ♪ 」
「 ジョー 〜〜〜〜〜 ・・・・ 」
島村さんの奥さんは 土曜の昼下がりの真昼間〜〜旦那さんに飛びついてあつ〜く唇を重ねた♪
「 うはは〜〜〜♪ 」
・・・ ジョーのハナの下は びろ〜〜〜〜ん・・・と伸びていたのだった。
― 結局 午後いっぱい、フランソワーズはTVに齧り付いていた。
カタン。 ドアを開けると ― ひんやりした空気がフランンソワーズの頬に触れた。
「 ・・・ どこまで動けるか わからないけど・・・ やってみなくちゃ。 」
土曜の夜 ・・・ 子供たちが 『 おやすみなさい 』 をした後、フランソワーズは
地下のロフトに降りてきた。
そんなに広い部屋ではないが 壁の一面には鏡になっていてコンクリートの床には
リノリウムを敷き詰めてある。 そこは彼女のレッスン室なのだ。
「 ・・・ うむ。 お前のレッスン室にしたらよいよ。 」
この家に住むようになり フランソワーズがバレエのレッスンを再会した時
博士が笑顔で言いだしてくれた。
彼女が こっそり地下のロフトの片隅で練習しているのに気が付いていた。
もともとはただの物置・・・資材の残りだの、建築用の材料などが雑然と置いてあった。
「 え ・・・ そんな ・・・ わたし一人のために 」
「 よいよい どうせ使っておらんスペースじゃもの。 ジョー・・・ すまんが 」
「 はい 勿論! フランソワーズ、なにをどうしたらいいか指図してくれる? 」
「 ・・・ ジョー ・・・ ありがとう ・・・ ! 」
こうして地下の物置 は フランソワーズの稽古場 になった。
「 午後中、自由にさせてもらったんだもの・・・ 頑張るわ! 」
フランソワーズは きゅっと唇をかみしめた。
土曜の午後、ジョーと博士の協力で ( 途中で細かくジャマは入ったけど ) なんとか
まとまった時間を < 自分のため > だけに使うことができた。
ジョー ありがとう〜〜 博士 すみません〜〜
こんなワガママいえるの、今日だけかもしれないわ・・・
― 集中するのよ フランソワーズ ・・・!
自分自身にハッパをかけ 全ての神経を集中させた。
・・・ そんな母の姿に気圧されてか さすがのチビ達もすこし離れて見ていた。
フランソワーズはもう必死で繰り返し 繰り返しDVDを見て、振りを覚えた。
「 むか〜〜し・・・ 習ったわよね。 なんとなく覚えているもの ・・・
同じオペラ座版だし ・・・ そんなに変っていない はず、 よ ・・・ 」
ともかく 一幕のヴァリエーションはなんとか確認できた。
時間がなかったので二幕はざっと通しで観ただけだったけれど 彼女は満足していた。
やるわ! 皆がこんなに協力してくれるんだもの。
わたし ― わたしの夢の実現めざして !
ジャン兄さん ・・・ 兄さんも見ていてね ・・・!
それでも ちゃんと晩御飯は作った。
家族が揃う晩御飯 は 島村さんち ではみんながものすご〜〜〜く大切に思い、
そして楽しみにしている < 家庭内行事 > なのだ。
「 フラン〜〜 晩御飯さ、ぼくが作るよ・・・・? 」
夕方には ジョーがそっと言ってきてくれた。
「 ・・・ っと・・ え?? 」
「 晩御飯。 冷凍食品、使うからさ 」
「 やだ・・・ もうこんな時間だったの? ごめんなさい〜〜〜 」
「 いいって いいって。 きみはきみの仕事をしていろよ。 」
「 ううん。 晩御飯は! 特に週末の皆で食べる晩御飯はわたし、つくりたいの。 」
「 でも 」
「 大丈夫。 ふふふ ・・・ わたしの実力を信じて? もうちゃんと覚えたわ。 」
「 そう なのかい?? 」
「 ええ。 さあ 晩御飯、作るわね。 え〜と ・・・? 」
ちょっとばかり強がりを言って にっこり笑顔で彼女は立ち上がった。
「 手伝うから。 そうだ、すばる〜〜〜 ジャガイモ、剥いてくれ〜〜
すぴか〜〜〜 庭の温室から ぷち・とまと、採ってきてくれ〜〜 」
「「 わ〜〜〜い♪ 」」
ジョーは ぱっちん!とウィンクを残すと子供たちとわいわいキッチンに入っていった。
・・・ ! ジョー 〜〜〜〜 ありがとう ・・・!
わ わたし! 絶対に 絶対に がんばるから!
フランソワーズは 滲んで睫に絡まってきた涙をきゅきゅっと指で払った。
「 さ〜〜あ。 美味しい晩御飯、 つくるわよ〜〜〜 」
楽しい・騒がしい晩御飯を終え、子供たちがベッドに入った後、フランソワーズはかなり遅くまで
< レッスン室 > で自習をしていた。
その結果。 ― 振りはしっかりちゃんと覚えた・・・と思った。
ロフトで動いて確認してみたけれど あとは練習だ、踊り込んでゆけばいい、と思った。
けど。 翌日 ・・・
「 お? もう自習かあ? 」
朝のレッスン後、 空きスタジオで自習をしているとタクヤが顔を出した。
「 タクヤ・・・ そうなの。 」
「 音出し するぜ? 」
「 ・・・ いいの? 」
「 もっちろん。 その代り〜〜 俺のパートも踊っていっかな〜 」
「 ふふふ どうぞ〜〜 っていうかヨロシクお願いします。 」
「 こちらこそ・・・ 」
二人はちょっと気取って < ご挨拶 > をした。
〜〜〜〜 ♪ 陽気な音楽が流れ始め ・・・ ジゼルが笑顔で踊り始めた。
「 ? ・・・ フラン〜 ちょっち 音とズレてね? 」
「 ・・・ え? 」
「 あの さ。 ・・・ あ〜〜〜 言ってもいいかなあ 」
「 え なあに。 やだ そんなの タクヤらしくないわよ? はっきり言って? 」
「 あ うん ・・・ あのさあ ・・・ フランの踊りって さ。
クラスの時から感じてたんだけど ・・・ 時々 音、遅取りしてねぇ? 」
「 ・・ おそどり? 」
「 ん。 こ〜〜 さあ 目立つほどじゃないんだけど ・・・
アダージオなんかの時には ふわ〜〜〜〜っと見えてプラスの時もあるけど さ 」
「 ・・・ 音よりも遅いってこと? 」
「 あ〜〜 なんつ〜かなあ・・・ 四分の一拍くらいなんだけど ・・・
う〜〜ん ・・・ なんかさ ・・・ こう〜 合ってない、ってほどじゃないけど 」
「 ― ズレてる のね ・・・ 直すわ。 」
― しっかりしなくちゃ。 ジョーや博士や子供達も応援してくれてるんだもの。
フランソワーズは きゅっと唇をかみしめた。 笑顔は ― もう消えていた。
Last updated : 05,19,2015.
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******** 途中ですが
フランちゃ〜〜〜ん ・・・ 笑顔にゃよ〜〜〜
まだ続きます 〜〜〜